カテゴリー「JOKER連載【野村先生アンソロ応援企画】」の記事一覧
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- 2012.09.30 君と僕との間には・・・①【宮島清華side】
君と僕との間には・・・①【宮島清華side】
上手く行かない・・・
大学を卒業して、出版社に入社して半年とちょっと。
私がやりたかった仕事って、本当にこんな事だったんだろうか?
宮島物産に入社することも考えたんだけど・・・ママに「社会経験を積んで来い」なんて言われて
「じゃぁ、やりたいようにやるわよ!」と啖呵切って出版業界に飛び込んだ。
しかし・・・期待でいっぱいだった世界は、今、失望に満ち溢れている。
伝えたい真実は闇に葬られ、脚色されて歪曲した罪だけが、日の目を見る。
入社して早々に上に盾を突き、既に長く孤立状態で居る・・・というのは私の性格から想像に容易い。
経緯が経緯だけに、親に相談することも出来ず、気がつけば溜息と睡眠薬の量ばかりが増えていた。
久しぶりにママから電話がきたかと思えば、見合いの話。
「放っておいて!」なんて怒鳴りつけてブツリと電話を切った。
ーーー 私、本当にどうかしてる・・・
すっかり聞き飽きた自分の溜息を聞きながら、数日ご無沙汰していたテレビをつけると良く見知った男が画面に映った。
「サクライ・・・?」
“微笑みの美男子”だとか“若き天才ピアニスト”だとか、そんなテロップで飾られた画面をボーっと眺める。
ーーー 性格は最悪だけどね・・・。
テレビ用に少し笑んだ顔を見ながら、心の中で吐き捨てた。
ーーー 目が笑ってない。なんで皆騙されるかな・・・。
インタビュアーに最低限の受け答えをする桜井を見つめる。
結局、桜井家の病院は彼の兄が継ぐ予定となり、彼は今を輝くピアニストとして世界中を飛び回っている。
よっぽどのことがなければお互い連絡を取ったりしないし、人伝に聞いた情報ではあるが。
やりたいことをやって成功している彼は、さぞかし幸せで楽しい毎日を過ごしているだろう。
私なんかと違って。
ーーー やだ、私、すごく卑屈になってる・・・。
お互いの性格上、顔を合わせればぶつかるが、実際、彼が嫌いかと聞かれれば、そんなことはない。
ジョーカーの仲間であり、彼が紛うこと無き天才であることも、どれだけ彼が音楽を、ピアノを愛しているかは良くわかっているつもりだ。
だから、活躍しているというのは、とても嬉しく思う、それなのに・・・今、素直に喜べない自分が嫌いだ。
ふと画面が切り替わる。編集してあるということは、生放送ではないのだろう。
いつの間にか、ピアノの前に座っていた彼が鍵盤に手をかけた。
タン・・・
静かな音が、身体に染み込んでいく。
彼の奏でる繊細かつ滑らかな美旋律に、最近はもう枯れてしまったと思っていた涙が溢れた。
「アンタ・・・ムカつくけど、やっぱ凄いわ・・・。」
その言葉に答えるように、携帯のメール受信音が鳴る。
随分タイムリーで、珍しい人物からだ。
From : 桜 井 春 夜
Title: 無 題
Message: キミに頼みがある。
本文が簡潔すぎて呆れる。しかし、あのプライドがエベレストの桜井が態々連絡してきて、
頼みがあるだなんて、余程のことなのだろう。
服の袖で乱暴に涙を拭い、ピアノが鳴り止んだのを確認してテレビを消した。
一呼吸おいて携帯電話へ手を掛ける。
“桜井春夜”
アドレス帳から電話番号を呼び出して“発信”を押す。
呼び出し音に息をのんだ。
8コール目で、天才の声が聞こえた。
「随分早かったね。キミ、もしかして暇なの?」
そのふてぶてしい態度にさえ、安堵を覚える。
それほどまでに、自分の精神は憔悴しきっていたのだろうか?
「アンタこそ、忙しそうじゃない。」
ただ、精一杯・・・そう呟いた。
【next・・・】
大学を卒業して、出版社に入社して半年とちょっと。
私がやりたかった仕事って、本当にこんな事だったんだろうか?
宮島物産に入社することも考えたんだけど・・・ママに「社会経験を積んで来い」なんて言われて
「じゃぁ、やりたいようにやるわよ!」と啖呵切って出版業界に飛び込んだ。
しかし・・・期待でいっぱいだった世界は、今、失望に満ち溢れている。
伝えたい真実は闇に葬られ、脚色されて歪曲した罪だけが、日の目を見る。
入社して早々に上に盾を突き、既に長く孤立状態で居る・・・というのは私の性格から想像に容易い。
経緯が経緯だけに、親に相談することも出来ず、気がつけば溜息と睡眠薬の量ばかりが増えていた。
久しぶりにママから電話がきたかと思えば、見合いの話。
「放っておいて!」なんて怒鳴りつけてブツリと電話を切った。
ーーー 私、本当にどうかしてる・・・
すっかり聞き飽きた自分の溜息を聞きながら、数日ご無沙汰していたテレビをつけると良く見知った男が画面に映った。
「サクライ・・・?」
“微笑みの美男子”だとか“若き天才ピアニスト”だとか、そんなテロップで飾られた画面をボーっと眺める。
ーーー 性格は最悪だけどね・・・。
テレビ用に少し笑んだ顔を見ながら、心の中で吐き捨てた。
ーーー 目が笑ってない。なんで皆騙されるかな・・・。
インタビュアーに最低限の受け答えをする桜井を見つめる。
結局、桜井家の病院は彼の兄が継ぐ予定となり、彼は今を輝くピアニストとして世界中を飛び回っている。
よっぽどのことがなければお互い連絡を取ったりしないし、人伝に聞いた情報ではあるが。
やりたいことをやって成功している彼は、さぞかし幸せで楽しい毎日を過ごしているだろう。
私なんかと違って。
ーーー やだ、私、すごく卑屈になってる・・・。
お互いの性格上、顔を合わせればぶつかるが、実際、彼が嫌いかと聞かれれば、そんなことはない。
ジョーカーの仲間であり、彼が紛うこと無き天才であることも、どれだけ彼が音楽を、ピアノを愛しているかは良くわかっているつもりだ。
だから、活躍しているというのは、とても嬉しく思う、それなのに・・・今、素直に喜べない自分が嫌いだ。
ふと画面が切り替わる。編集してあるということは、生放送ではないのだろう。
いつの間にか、ピアノの前に座っていた彼が鍵盤に手をかけた。
タン・・・
静かな音が、身体に染み込んでいく。
彼の奏でる繊細かつ滑らかな美旋律に、最近はもう枯れてしまったと思っていた涙が溢れた。
「アンタ・・・ムカつくけど、やっぱ凄いわ・・・。」
その言葉に答えるように、携帯のメール受信音が鳴る。
随分タイムリーで、珍しい人物からだ。
From : 桜 井 春 夜
Title: 無 題
Message: キミに頼みがある。
本文が簡潔すぎて呆れる。しかし、あのプライドがエベレストの桜井が態々連絡してきて、
頼みがあるだなんて、余程のことなのだろう。
服の袖で乱暴に涙を拭い、ピアノが鳴り止んだのを確認してテレビを消した。
一呼吸おいて携帯電話へ手を掛ける。
“桜井春夜”
アドレス帳から電話番号を呼び出して“発信”を押す。
呼び出し音に息をのんだ。
8コール目で、天才の声が聞こえた。
「随分早かったね。キミ、もしかして暇なの?」
そのふてぶてしい態度にさえ、安堵を覚える。
それほどまでに、自分の精神は憔悴しきっていたのだろうか?
「アンタこそ、忙しそうじゃない。」
ただ、精一杯・・・そう呟いた。
【next・・・】
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